横浜市民活動ITサポートプロジュクト「TaKUMi」の情報誌
  発行・2005−09−10
「横浜オムニバス通信」101号

市民電子会議室と横浜市
巨大都市横浜市は本気になってICTによる市民参画を実現する気があるのか?
        
                   青葉区 中谷英世
---------------------------------------------------------------

横浜市は平成15年3月策定した電子市役所推進計画の冒頭に以下の3っの視点を
掲げ、その第1に「市民が市政に参画し、市民と行政が協働する、市民の視点に
立った行政の実現」を上げています。そして「ITを活用して市民や企業等の市
政への積極的な参画を促進することにより、市民、企業やNPO等と行政が協働
して、市民や企業等が求めるサービスを実現する行政運営を展開していきます。
」と謳っています。
http://www.city.yokohama.jp/me/soumu/ipd/ecity/ecity_plan/

しかしその具体的なアクションプランは「市民の声の分析にITを活用し、市政に的確に
反映していく」とコールセンターの設置が中心で、「市民電子会議室」の開設については、
「平成15年度から、モデル区を選定し試行的に実施し、電子
会議室の開設に向けて枠組みの検討を実施。その後、モデル事業の状況や課題等
を踏まえて、設置区域の拡大等を検討します。」と最初から及び腰で、市では開
設せず、権限のない区に実施を押し付けました。
http://www.city.yokohama.jp/me/soumu/ipd/ecity/ecity_plan/chap2_1.html

案の定、早くも16年度の総務局アクションプラン振り返りの中で
http://www.city.yokohama.jp/me/soumu/soumu/actplan/2004actsofurikaeri.pdf

市民電子会議室計画は「未達成」として、
「平成15年度後半から先行して実施している区を中心として、各区における取組状況や
課題等について検討。
しかしながら、民間の運営ケースが増えてきており、区が運営主体となっている
電子会議室の利用者数が伸び悩み、また各区の地域特性の相違等から、廃止や規
模の縮小、設置予定無しの区が全区の過半数(10区)を超える状況となっており
、その必要性については再検討していく必要がある。

民間組織との役割分担を含めた行政の関わり方や全市的な会議室の設置時期につ
いては、各区での会議室の利用状況、今後の動向等を勘案しながら、弾力的に対
応していく必要がある。」と早くも撤退の様相です。

■私は、横浜市電子市役所懇談会に参加した際に、横浜市の広聴のあり方と市民
電子会議室について意見書を提出し、その問題点を指摘し、専門家による検討会
を提案しました。
原文は懇談会資料として横浜市のホームページに掲載されています。
http://www.city.yokohama.jp/me/soumu/ipd/confab/3rd/pdf/teikyo03.pdf

広聴制度の問題点:
従来、市民の意向把握や政策への反映は、建前的に行われてきた面がある。メー
ルや掲示板も、聞きっぱなしで、どのように行政施策に反映されるのかといった
担保もなされていないのが実態。横浜市の市長への手紙、陳情、メール、区民会
議などの広聴も同様に意見を参考にする程度で政策反映への検討のルールも不明
確で担保されたものではない。

電子市民会議室の課題:
・ 電子市民会議室にたいする行政の全庁的な取り組みと推進部局が必要。
・会議室の設置目的を明確にし、政策への反映方法などをルール化すること。
・内容は、行政職員全員にメール等で配信され、行政職員が答える際の庁内ルー
ルを明確にする。
・優れた進行役が必要。公募による世話人、運営委員、e-エディターなど市民が
自主性を持って運営する。
・市民の側も、単なる苦情の場ではなく、建設的な意見を述べる場として認識す
ること。
・電子市民会議室を開設する地域ポータルサイトを民間と行政が協働で運営する
仕組みを構築し、行政主導ではなく市民の意見が反映しやすい環境を整備する。
・ 提言にまで高め施策実現に結びつけるためにバーチャルな意見交換だけでは
難しい。行政と市民が共に論議していくリアルな「場」の設定が重要。

■今、思えば、こうした課題を横浜市が真摯に検討した形跡がありません。ここ
は総務省の「ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」
に期待しましょう。

■しかし、360万巨大都市横浜市に果たして市民電子会議室やICTによる住民参画
は可能なのでしょうか?横浜市は区のレベルでにの開設を原則にしていますが、
20万30万の市なみの人口を抱える区であっても、それが行政区である限り、住民
自治のためのICTによる住民参画を実現することは極めて難しい話です。

区の権限強化を謳い、広聴広報は区が中心・・・との形だけの政策を進めていま
すが、行政区である区への分権化にはおのずと限界があることも明白です。
いくら努力しても、区には市政について答える権限もなく反映するルールもない
状況では「市民参画を促進する市民電子会議室」を開設する意味がありません。
つまり、市と行政区という横浜市の2重構造の仕組みでは、市民参画を促進する
ことが極めて困難なのです

そうした巨大都市横浜市の行政制度の欠陥が、ユビキタスネット社会における市
民の基本的な権利である「自治と参画の社会システム」と矛盾するものであり、
市民社会の進歩に大きな阻害要因となることは明らかです。

東京都における特別区と同等の権利を横浜市民が獲得しない限り「自治と参画」
は絵に描いた餅でしかないといえます。