生き物こぼれ話(その37)
 この写真は野菜のゴーヤです。別名ニガウリ(苦瓜)。ウリ科、一年生のつる性植物。

原産地は熱帯アジア、主にインドと言われ、中国を経由して江戸の頃に沖縄に渡来したと言われています。旬は6〜8月

 沖縄では夏野菜の王様とも言われる特産物として有名。5月頃から出荷が始まることから、沖縄では5月8日をゴーヤの日としています。

ゴーヤが日本各地で食べられるようになったのは極くごく最近のことです。それまでは沖縄から県外へは出荷できませんでした。沖縄ではウリ科の植物につくウリミバエという大害虫が猛威を振るっていたのでこれが本土に侵入するのを防ぐため、ウリ類を県外に移動することが禁止されていたのです。
  沖縄は1972年に本土復帰を果たしましたが、当時の琉球政府と日本政府の協議によって、本土復帰記念事業の一つとして、ウリミバエの根絶事業が計画されました。この事業は沖縄の各島で、20年以上に亘って続けられました。そしてついに、沖縄の農業に大きなダメージを与えてきた害虫ウリミバエの根絶に成功したのです。

このようにして、ゴーヤは晴れて本土出荷が可能になったのです。今回は沖縄のゴーヤを素材にしながら、農薬を使用しないで害虫を絶滅するお話です。ウリミバエは1センチ足らずの一見ハチのように見えるハエで、キュウリやゴーヤなどのウリ類の果実に産卵し、幼虫が内部を食い荒らします。

 ウリミバエの根絶には「不妊虫放飼法」という自然の繁殖本能を利用した技術が用いられました。この方法はまず人工的にウリミバ工を飼育・増殖して、大量のサナギを生産します。

このサナギに放射線を照射してオス成虫の精巣に異常を起こさせます(不妊化)。こうして作られた不妊虫を大量に野外に放つと、野生虫のメスは不妊虫のオスと交尾する機会が増えることになります。不妊虫と交尾した野生虫が産む卵はふ化する能力が無いので、次世代は育ちません。

大量の不妊虫を継続的に繰り返し放し続けると、野生虫間で交尾する機会はますます減少し、やがて正常に繁殖できる子孫は次第に減って、最終的には根絶に至ります。

 1975年、わが国初めての不妊虫の放飼が久米島で始められました。那覇市で作られた不妊虫をヘリコプターに積み込んで上空から散布したり、バケツで木の枝に吊るしたりする方法が採られました。

久米島に続いて、規模の小さい宮古島群島、沖縄本島と続けられました。沖縄本島では1986年に作業が始まり、1990年に根絶の成功が発表されました。最後になった八重山諸島で根絶が確認されたのは1993年でした。
事業期間は21年。全事業に要した費用は約170億円、この間に放飼されたハエの数は約530億匹と言われております。

不妊虫放飼法は約50年前にアメリカで実用化されたもので、その特徴は、
・薬剤散布をしないので、環境汚染がないこと。
・薬剤による方法の場合には、虫の側に耐性が出来て段々に効かなくなるが、それが無いこと。
・既に存在する種をつかうので、外来種移入に伴う危険がないこと。

不妊虫放飼法は、特定の害虫を根絶させる手段としては、今日ほとんど唯一の方法とされていますが、どんな場合でも使える訳では有りません。この方法を適用するにはかなり厳しい条件が伴います。
・当然ながら人工的に飼育することが可能であること。
・その害虫は移動性が低いこと。そうでなかったら無限に規模の大きい作業になってしまう。
・成虫は被害を出さないものであること。一時的とは言え、成虫の個体数が増加するからである。
  ・成虫が何度も交尾するものにも向かない。雌が何度も交尾するのでは不妊効果が出ない。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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