生き物こぼれ話(その36)
 この写真はナシの長十郎、 川崎を代表する果物です。川崎では江戸の昔から盛んにナシが栽培されていたようです。

 明治20年代に大師のナシ園で他のナシとは違う品種が発見され、発見者の名を取って長十郎と名付けられました。

 明治30年頃に全国的にナシの病気が大流行します。壊滅的被害を受けたその中で、川崎の長十郎だけが被害が軽いうえに収穫量が高かったことが知れて、大正時代になると全国のナシの生産量の半分以上を占めるようになりました。その実績が評価されて、川崎大師には長十郎の記念碑が建っております。
 
 ナシはバラ科です。バラ科は大変に種類が多く、バラの花はもちろん、サクラ、ピラカンサ、サンザシ、カイドウ、ボケなどの花から、リンゴ、ウメ、モモ、ビワ、アンズ、カリンなどの果物まで沢山の種類があります。そのうち、ナシはバラ科ナシ属に分類されます。

植物の図鑑を見ると殆どの場合、分類(科、属)が書いてあります。そもそも植物や動物の分類にはどんなのが有って、それにはどんな意味が有るのだろうか。 今回はナシを素材にしながら、生物の分類に関する基本的な概念についてのお話です。

地球上の全ての生物の種は永い間の時間の経過とともに増えたり絶滅したりを繰りかえしてきました。すべての生物はたぶん1種の生物から順々に枝分かれ的に進化してきたと考えられているので、その有り様は、ちょうど木の幹からたくさんの枝が次々に分かれていく様子によく似ています。

そこで生物進化の枝分かれを表した図またはその概念が出来ました(系統樹)。 生物分類の基本的な考え方は進化の系統樹の形に対応させるようになっております。

生物の一番の大分類を界といいます。大昔の分類では動物界と植物界しかなかったのです(二界説)。18世紀になってスウエーデンの博物学者リンネが五界説を提唱しました。五界説とは、動物界、植物界、菌界、原生生物界、モネラ界です。

それに依れば、きのこは野菜のように見えますが実は植物ではなく菌界に分類されるなど、五界説は私たちの日常感覚とはややズレることがありますが、生物進化の系統をとてもよく反映していると言われており、今日ではこれが生物分類の主流になっております。

界は次に中分類、小分類へと進み、大きく7段階に分類されます(分類段階)。 例えばナシの例で言えば、植物界―被子植物門―双子葉植物網―バラ目―バラ科―ナシ属。 ニンゲンの場合には、動物界−脊椎動物門−哺乳綱−霊長目−ヒト科−ヒト属−ヒト となります。

つまり、分類上位から 界−門―網―目―科―属−種となります。この分類は一見覚えにくいように見えますが、下から読めば、種属科目網門界です。実際にはこの他に、亜種、亜属、亜科、亜目、上目、下目などが入り組んできますから、かなり複雑なものになります。

生物をまとめるのに、類という言葉が使われることがあります。主観に一致するし、何でもまとめてしまえる便利な言葉なので日常的に頻繁に使われています。上記で言う分類段階と同じ意味を示している場合もありますが、分類段階に一致しない共通点をまとめる場合にも使われます。

例えば、哺乳類 = 哺乳綱、 猛禽類 = タカ科+ふくろう科  蝶類 = 鱗し目−ガ類 などです。有袋類=有袋目に属する生き物 というような意味に使われることも有ります。

 リンネの提唱した分類に関する考え方はその後多くの変遷を経てきているが、分類体系の標準方式とされ、これによって分類学の父と呼ばれております。スエーデンの100クローネ紙幣にはリンネの肖像が印刷されております。千円札に印刷された野口英世像のようなものでしょうか。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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