生き物こぼれ話(その34)
 この写真はツキノワグマです。食肉目クマ科。絶滅危惧種。
首もとには白い三日月形の模様がある。この模様は個体によって異なり、中にはほとんど月の輪の無いものも居ると言われる。

 山地に棲み、子育てをしている時以外は単独で生活する。食性は雑食で、木の若芽や果実などの植物質のものから、昆虫やカエル・ネズミまで食べる。

 冬期には樹洞や岩穴や土の穴に籠もって冬ごもりする。雌はその間に一頭か二頭の子を産む。九州や四国ではほぼ絶滅し、中国地方でも絶滅寸前と考えられています。

 クマの寿命は10年位という説や25年位という説もあってはっきりしたことは分かっておりません。
 
 そもそも野生の動物の年齢は分かるのだろうか? どうやって調べるのだろうか? 今回はツキノワグマを素材にしながら野生の動物の年齢を調べるお話です。

 樹木の場合には年輪が有って、それを数えれば年齢が分かることは誰でも知っています。樹木の成長には季節によって3つの段階があります。春から夏にかけてはよく成長するので、この期間に作られた細胞は軟らかくて色は薄く見えます。 一方、夏から秋にかけての細胞は堅くて色は濃く見えます。冬になると木は落葉しあるいは太陽光線が弱くなるので成長はほとんど止まってしまいます。この周期が毎年繰り返されるので結果として年輪が出来ることになります。

 動物保護のためにはまずその前提となる生態を明らかにする必要が有ります。生息域や食性だけではなく、個体の年齢の調査もその一つです。ある地域からたくさんの資料を集めて年齢を調べると、その地域に生息する動物の生存率や死亡率を推定することができます。そのため、野生動物の年齢を調べる技術が開発されて来ました。

 ・歯 冬場には歯のセメント質の形成が停滞するため、成長層という年輪のような層が出来ます。歯の外側から見えるわけではないので、歯のカルシウムを薬品で溶かし出して軟らかくしたあと、輪切りや縦切りにします。さらに見えやすいように色を付けてこの層の数からこの動物が何回越冬したかを知ることができます。従来は歯の摩滅,頭骨の縫合線の消失など発育生長にともなう形態変化が指標として用いられてきましたが、現在では年輪法が広く採用されるようになってきました。 (シカ、クマ、キツネ、タヌキ、サル、イルカ)

 ・角輪 ウシ科の動物の角は、角の表面に輪状になった凹凸があります。シカの角のように毎年落ちて生え替わることはないので、この角輪を数えると年齢を知ることができます。なおニホンカモシカはシカと名前がついていていますがウシ科です。

 ・耳垢 クジラの年齢は、耳の穴にたまる耳あかによって調べることができます。クジラは冷たい海と暖かな海を周遊するので、耳あかが縞模様になって残ります。この耳垢をとりだしてスライスし観察すると年齢が分かります。

 ・うろこ 多くの魚が持っている表面のうろこは、体内へ水がしみこむのを防いだり、細菌などが入ってくるのを防ぎ、あるいは外敵から身を守るよろいのような役目を果たしています。うろこには、木の年輪のような成長線と呼ばれる輪ができます。春から夏にかけては魚が最も成長するので、この線と線の間隔が広くなり、反対に秋から冬は狭くなることが分かってきました。このためこの年輪模様で魚の大体の年令を知ることができるようになってきました。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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