生き物こぼれ話(その33)
  この写真はライチョウ(雷鳥)です。特別天然記念物。長野県、岐阜県、富山県で県の鳥に指定されています。

 キジ目キジ科ライチョウ亜科。飛騨山脈など標高 2400メートル以上のハイマツ帯に生息しています。
飛ぶことはあまり得意ではなく、生涯を通してごく狭い範囲で生息している。渡りもしない(留鳥)。

 日中はイヌワシ、クマタカなどを警戒してハイマツ林の中で生活し、朝夕や悪天候時に開けた場所で採食します。


 
 夏は褐色、冬は純白と季節によって羽毛の色が変化することは良く知られている(保護色、この写真は端境期)。 天敵から逃れるために、霧や雷雨で視界が良くない時にしか出てこないことから、この名が付いたと言われています。古代山岳信仰では神の死者とされてきました。

 ライチョウは氷河期から生き延びてきた鳥で、生きている化石ともいわれています(遺存種)。 環境の変化が起きた場合、生物は移動するか或いは進化をして絶滅から逃れます。氷河期が終わって気候の温暖化が始まったとき、ライチョウは高山に逃げ、そこで生き延びました。

 生きている化石(遺存種)にはどんなものが有って、何故守られなければならないのだろうか。今回は、ライチョウを素材にしながら、遺存種についてのお話です。
 
 ライチョウは明治の末には既に保護鳥に指定されていましたが、今日ますます絶滅の危険が高まっています。環境省のレッドデータブックにより、絶滅危惧 II 類に分類されています。 
遺存種には、かつては多くの個体数が存在していたが、現在ではその数が極端に減少してしまったもの(数量的遺存種、ヨーロッパや北アメリカの野牛、インドサイなど)。

 その生物の祖先や類縁種がかつては広い地域に分布していたが、現在は限られた地域にしか生息していないもの(地理的遺存種、日本や中国のイチョウ、メタセコイヤ(日本名:曙杉、中国名:水杉)、ナキウサギ、ライチョウ、など)。
 原始的な生き物がほとんど進化をすることなく、そのままで生き残ってきたもの(系統的遺存種、カブトガニ、シーラカンス、トクサ、ゼニゴケ、など)。

 地質時代の生物研究の多くは当然ながら化石に頼っています。ところが動物の血液は化石になって残ることは有りませんし、皮膚や筋肉も残りにくい組織です。遺存種は化石には残りにくい組織の構造や生態の比較研究などに極めて有用です。つまり、生きている化石とは、生物がどのように進化してきたかを能弁に語る代弁者なのです。

 恐竜は絶滅したのにカブトガニは何故生き残ることができたのか、というような質問を見ることが有ります。この回答は実は大変に難しいのです。というのは恐竜が絶滅した原因それ自体が良く分かっていないのです。色々な仮説は有りますが、いずれも仮説の域を出ていないのです。

 そこで仮に、恐竜絶滅の原因が環境変化による気温の低下だったとした場合を考えてみます。食物連鎖の頂点に立っていたと思われる恐竜は、餌の欠乏に見舞われたのかも知れません。

 熱帯や亜熱帯気候に適応していた恐竜が仮に恒温動物で有ったとしたら、迫り来る寒さに適応できなかったのかも知れません。

 一方カブトガニの場合には、卵はある程度の乾燥に耐え、幼生あるいは成長個体は気温の低下によって休眠状態に入ることができるので、この間は餌を捕りません。また個体がもともと小さいのでわずかの餌が有れば生き延びることが出来たのかも知れません。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


戻る