生き物こぼれ話(その30)
 この写真は知床のエゾシカです。北海道を代表する大型哺乳類。偶蹄目(ぐうていもく)シカ科。針葉樹林やカラマツの人工林地域にも生息しています。

 シカ科の動物は草食性で、4つに分かれた胃で反芻(はんすう)消化をします。バクテリアを利用して硬いセルロースも消化吸収します。

 その愛らしさから古来多くの国で親しまれてきました。「俊敏」「非力」などの象徴ともされてきました。

 エサの無くなる冬場は樹皮をかじって、幼木を枯死させるため、その対策が真剣な問題になっております。シカの寿命は約20年、メスの方が長いとも言われていますが正確なことは分かっておりません。
 動物の寿命は野生状態と動物園の飼育状態ではどう違うのだろうか? そもそも野生状態で寿命を全うすることは有るのだろうか? 今回はシカを素材にしながら動物の寿命についてのお話です。
 

 動物の寿命はその生息条件によって全く違うので、大きく2つに区分して考える必要があります。
動物園などの飼育環境下であれば生理的に本来もっていると考えられる永い寿命を保つことができます(生理的寿命)。 飼育環境下であれば外敵に襲われることが無いし、食料を求めて飢餓にも遭わずに済む。そのうえ栄養的にも管理されています。病気や寄生虫の心配も少ない健康管理下におかれています。冷暖房や採光に配慮された環境であれば過酷な生息環境から逃れられます。

 つまり、動物園に暮らす動物たちは、野生時代に比べはるかに行動の自由を失っていますが、そのかわり、飢餓、病気、寄生虫、あるいは苛酷な環境から解放されていることになります。
次に野生の動物たちの寿命は、飼育環境下に比べはるかに短くなります。野生動物たちの一生は生理的寿命に達するずっと以前に、生態的な寿命で終わってしまうからです(生態的寿命)。

 カモシカやシカなどの草食動物の場合、時速80キロで走る元気なものは時速60キロのライオンの追跡から逃げることができますが、怪我をした時、或いは老化によって脚力が衰えたとき、生態的な寿命を迎えることになります。

 それはライオンやトラのような或いはワシのような食物連鎖の頂点に立つ動物であっても例外ではありません。これらの猛獣はたしかに大きな力を持ってはいますが、それは最大の走力があり、爪や牙が武器として力を発揮できる場合だけであって、老化して走力が落ちたとき、爪や牙に鋭さが欠けてしまった時には、もはや、全力で逃げる獲物を獲ることができなくなり、自滅へと向かうことになるのです。

 野生の生物の寿命とは、それが捕食者であっても被食者であっても、生態的寿命でしか有り得ないということになります。こうようにして野生では老いた個体は見られないことになります。
生きものの寿命には,まだ分かっていないことが多い。例えばクジラのように海に生活している動物の場合,海岸に打ち上げられた骨などから推定するしかないからです。

 生態的寿命と生理的寿命の比率はもちろん種によって異なると考えられますが、平均的には半分以下と推定されています。
生理的寿命は何故起こるのか。これについては諸説が有ってはっきりしたことは判っておりません。遺伝子の中に老化が起こるようにもともとプログラムされているという説。体を作っている細胞が次々に分裂して複製されていく過程で何らかの遺伝子のエラーが起きて、それが永い間に繰り返され、正常に機能しない細胞が蓄積されてくるという説など。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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