生き物こぼれ話(その28)

 この写真はホウセンカ(鳳仙花)の実です。左側の実は既に熟して種をはじき飛ばしたあとです。ツリフネソウ科。熱帯アジア原産の1年草です。

 果実は楕円形で先端が尖り、熟すと突然に内側に巻くように裂けて、その勢いで中の黒い種子を四方に蒔き散らします。種子の自動散布の例として良く引き合いに出される植物です。

 学校の理科の授業では、茎の柔らかさを利用して、茎の断面の観察や、赤インクを吸い上げさせて導管の観察などに利用されており、子供たちにも馴染みの深い花です。

 ツリフネソウ科の花の特徴は、熟した果実に触れると種子が勢いよく飛び散ること。このためホウセンカの花言葉は、「私に触らないで!」

 中国では古くから知られている花で、名前の由来は花を鳳凰(ほうおう)に見立てた中国名。日本名はその音読み。

 

 日本には元禄期頃に渡来したと考えられています。別名は爪紅(つまくれない、つまべに)。子供たちがこの花で爪を染めたり、色水を作って遊んだりしたことによります。
植物は動けないからこのように色々な方法で子孫を増やしますが、若し足が有って自由に動けたら随分便利だろうにと誰もが考えます。そこで今回は、植物はなぜ動かないのかというお話です。

 一般に、動くものが動物で動かないものが植物と考えられていますが、植物はなぜ動かないのかを考える前に、逆説的ですが、動物はなぜ動くのかを考えてみましょう。
動物も植物も、自分自身の体を作ったり、運動したり、成長したり、繁殖をしたり(生命活動)をするためには、糖やでんぷん、たんぱく質など(有機物)が必要です。有機物の中に含まれている化学エネルギー(カロリー)を使って、自身の生存を維持しています。

 そのために動物は、地球上に存在している有機物(動物や植物)を獲って食べます。それを呼吸によって分解して自身の栄養とすることによって生きています。それらの有機物は向こうからやって来ては呉れません。つまり動物は生きるためには食料を探して自身で動かざるを得ないのです。

 次に植物の場合にはどうでしょうか? 植物は葉緑素という工場で、水分と二酸化炭素を材料とし、太陽光を動力源として、必要な有機物を自分で作って生きています。葉緑素は太陽の物理エネルギーを化学エネルギーに転換させて有機物という形で貯える能力を持っています。
植物は自身が有機物製造工場であるので、他の生命を食べる必要がないし、もちろん自分で動き回って食料を探す必要もないのです。

 かくして、植物はひとたび発芽したところで、名実ともにそこに根をおろして太陽の恵みを一杯に受けて生活できますが、動物は太陽エネルギーを化学エネルギーに転換する能力がないため、やむなく、移動するための足を進化させ、他の植物や動物を捕まえるための器官を発達させてきました。

 したがって、従来からの「動くものが動物・動けないものが植物」なのではなくて、「動かなければ生きていけないものが動物、動かなくても立派に生きていけるものが植物」という言い方の方が正しいのかも知れません。
この微妙なニユアンスの違いを大人なら理解できますが、これを小さい子供に理解してもらうことは困難です。そこで内心の思いとは裏腹に、動けるものが動物で・動けないものが植物です、という説明をすることになるのです。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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