生き物こぼれ話(その26)

 この写真はハイマツです。マツ科マツ属、常緑低木。風当たりの強いところなどで、地面を這うように生えているところから、この名(這い松)があります。

 幹は地上を這い、あるいは斜上して、決して地際から直立することはない。枝は密生して四方に広がるため、元の根がどこにあるのかわかりにくい状態になります。
北海道と本州中部以北に多く分布。日当たりのいいところを好み、乾燥にも強いため、砂礫地などでもよく生育します。

 このため、この写真に見るように、亜高山帯〜高山帯の砂礫地や岩場などに生育して大群落を形成します。地面を覆いつくすほどのハイマツの純林になると、ハイマツ帯と呼ばれます。北海道では海抜400mほどの低地でも生育している。

 極めて厳しい環境の中で生育する樹木であるため、成長は非常に遅くて、幹が直径10pになるのには約100年といわれています。

 高山、極地、砂漠といった厳しい環境の中でも工夫を重ねて生き抜く生物がたくさん知られています。今回はハイマツを素材にしながら、極限の環境の中で生きる植物たちのお話です。

 ハイマツの球果(松ぼっくり)の中の種子は脂肪分を多く含み、栄養的には優れた食物になっております。このためハイマツにはたくさんの動物たちがやって来ます。シマリスは自分の体重でゆらゆらと揺れる枝につかまりながら、巧みに球果をかじって中の種子を取り出します。アカゲラやハシブトガラスなどの鳥類もハイマツの種子を食べます。

 カラスやリスはその場で食べるだけでなく、食べ物を運んで地中に隠し、貯蔵する習性があります(貯食)。運搬貯蔵された種子は全て食べられるわけではなく、一部はそのまま忘れられてしまいます。そしてやがてそれらは発芽を迎えることになります(種子の動物散布)。

 ハイマツが生育している場所は、他の樹木たちにはとても生育できないような厳しい環境の土地ばかりです。そのような中で、ハイマツは自身の成長はぎりぎりにしました。その上で、動物たちに栄養分豊かな食料を提供するという高等戦略(?) を採用することによって、極限の地でも分布域を拡大し、今日の子孫繁栄を勝ち取ってきました。

 富士山に咲くフジアザミも極限の植物です。キク科。その根は深く、発芽して3年ほどで長さ1mにもなります。ひとつの株(固体)が数千個もの小さな種子をつけます。普通には、植物の種子は形が大きいほど多くの栄養分を持たせられるので発芽率が高いと考えられていますが、富士山ではひんぱんに雪崩が起こるため、種子が大きいと一緒に流されてしまうことになります。

 そこで、崩れやすい斜面で生きるために、種子は小さくて数は多くし、いったん発芽したら今度は流されないように、根を地面に杭を打つように太く長く伸ばす、という戦略を取ったものと考えられます。

 フジアザミはパイオニア植物と呼ばれます。足場の悪い斜面でがんばっていれば地表面が段々に安定してきます。そうなればその地面には徐々に他の植物が入り込んでくるようになります。

 地球上には、暑いところ、寒いところ、凍るところ、日照の少ないところ、水分の少ないところ、土の少ないところ、風の強いところ、崩れやすいところなど、植物にとっては生育に適さないところが数多く有ります。そのような土地であっても、永いながい進化の過程のなかであらゆる試行錯誤を繰り返して、植物たちは生きて来ました。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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