生き物こぼれ話(その25)

 この写真はモウソウチク(孟宗竹)です。イネ科、多年生常緑草本植物。原産地は中国。

 漢の時代に孟宗という人がいました。冬に筍(たけのこ)を食べたいという年老いた母の希望をかなえようと苦心惨憺していたところ、その誠意が天に通じて竹藪から次々と筍が生えてきた、という故事から命名されたといわれています。

 タケは強靱で、成長が早く、衣・食・住にわたって様々な分野で、材料として活用されてきました。日本人の生活の中に名実ともに節目を作る役割を果たしてきたとも言えます。

 タケは何十年という周期で花を咲かせ、そのあとで一斉に枯れる性質があります。そしてタケに花が咲いた翌年は作物は凶作になるといわれています。そもそも、タケは木なのだろうか草なのだろうか?

 タケは日本人の日常生活に密接に関わっていますが、改めて考えて見ると意外と分らない植物です。今回は身近のどこにでもあるタケについてのお話です。



 タケは木か草かという問題は長い間議論されてきました。タケは一回開花植物で,何十年目かに一斉に開花し、そのあとは一斉に枯死します。開花は気候的や土地的なものではなく体内時計によると考えられています。1ケ月位で成長したり地下茎で繁茂したりするのは、草の仲間(草本、そうほん)の性質です。モウソウチクの開花は50年あるいは100年ごとと言われています。花が咲くと実を作って枯れてしまうというのは草の性質です。

 一方で、何十年間も花が咲かないという性質や、その巨大さや材の堅さは木の仲間(木本、もくほん)です。タケは草とも木とも大きく違っているので,どちらに分類しても無理がきます。

 そもそも、海の中で生命が誕生して地上に進出したとき、それはシダ類だったと考えられています。つまり草本です。草本類が進化して木本類になりました。そのようなわけで、草と木の区別は厳密なものではなく、しっかりとした学術的な定義があるわけでもありません。タケは図鑑では多くの場合、木本に分類されていますが、イネ科ではなくタケ亜科植物として分類されている場合もあります。

 タケはイネ科植物の進化した姿とも考えられます。タケは、草本から木本に進化する中間的過程の位置付けの植物であり、草と木の両方の性質を持っているということになりそうです。丈が高くなるにつれ、それに応じて茎が強化された草と見るのが妥当かも知れません。

 人間がサルから進化したことは良く知られています。極端な例えになりますが、長いながい進化の過程の中の一時期をつかまえて、これはサルか人間かという議論は多分全く意味がない。つまり連綿とつづく進化の過程にある植物を、ここまでは草、ここからは木と呼んで二分しょうとすること自体に無理があると言えます。

 次に、タケはなぜ中空なのかという疑問が有ります。タケは草でありながら丈が高いために雨風の影響をモロに受けることになります。このために一定量の材でも大きな強度を実現するために茎を中空にし、さらに風によっても折れないように、材はうんとしなやかに進化していったと考えられます。

 タケはパイプ構造であり所々に節を持つため、重さの割には大変強靱にできており、昔から用材としての利用価値は大変高いものでした。先端になるほど細くなる欠点はあるものの、鉄製品やプラスチック製品が普及するまでは、生活日用品、建築用材、農業資材、漁業資材として利用されてきました。今日では、竹炭のとしての利用が新たに見直されてきております。

 タケが開花して結実すると、充分な餌を食べて野鼠が大発生します。このため農作物に被害を与えたり,地下茎が荒らされて山地が崩壊するなど,タケ開花=凶作説へと変わってきたと考えられます。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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