生き物こぼれ話(その24)

 この写真はユズリハです。トウダイグサ科。雌雄異株。樹高は4〜10m位。葉は長さ20センチ位の長楕円形。暖地に生える常緑樹です。

 古い葉は3年越しで新葉と入れ代わり落葉します。新葉がのびながら古い葉が落ちるのがこの樹の特徴です。

 子供が順調に育って、世代交替が円滑に行なわれていく様子を連想させるところから、ユズリハと呼ばれるようになったと言われています。

 大変にめでたい植物とされて、正月の生花やしめ飾りに用いられます。葉の根本部分(葉柄)が赤く、常緑なのも正月の飾りにふさわしかったのかも知れません。めでたいとされる植物はたくさん有りますが、どんなところからそんな習慣ができたのだろうか? 今回はそんなお話です。


 めでたい植物の中で一番知られているのは、「松竹梅」でしょう。松は冬も青々としていることから長寿を示す縁起の良い木として尊ばれ,新年を寿ぐ門松となりました。

 竹は、成長が早いことから子々孫々までも繁栄の象徴とされ、冬でも緑を保ち、雪の重みに耐えて折れなくて、これを跳ね返す丈夫な力強さは、平穏無事を表すものとされました。

 梅は、雪の寒さの中でも花をつけるところから生気と華やかさを表すものとされていました。梅の芳香は気品が感じられ、豊かな情感ある生活をあらわすものとされています。

 松竹梅は、中国の唐や宋の時代の頃から「厳寒の三友」と呼ばれてめでたい植物とされていました。寒い冬の時期でも彩りが良い樹木群として好んで画題にされていたものです。これが日本に入ってきてから、やがて吉祥の象徴となったものと考えられています。

 フクジュソー(福寿草)はキンポウゲ科の多年草。旧暦の元旦の頃に開花することから元日草(がんじつそう)とも呼ばれます。花の開花期間が長いことから、幸福で寿命が長いという意味にあやかった名だといわれています。この上ない程のめでたい名前であったために庶民に広く好まれ、江戸の前期頃にはすでに、新年を祝うめでたい植物として鉢植えなどにされていたようです。

 センリョウとマンリョウ(千両、万両)は、日本のお正月を飾るめでたい植物です。どちらも関東地方以西の温かい地域に分布しています。冬でも深い緑の葉をつける常緑の木で、しかもたくさんの真っ赤な果実を付けるので子孫繁栄の象徴とされ、新年のお祝いにふさわしい植物だったと思われます。

 ナンテンは言葉の響きから「難を転じて福と成す」とされるめでたい植物です。ナンテンは多くのアルカロイドを含有し、昔から咳止めの民間療法に用いられます。ナンテンの実は喘息や百日咳の咳止めに、葉は感冒や百日咳の咳止め、目の腫痛などに用いられてきました。

 オモトは万年青とも書き、葉が一年中青々としている常緑の多年草。不老長寿のめでたい植物、縁起のよい植物とされています。江戸の頃から愛好家が多い。

 めでたい縁起の良いとされる植物はたくさん有りますが、その本質は人間側の勝手な思い込み、あるいは願望の表現であって、どんな植物であっても必死になって生きていることには何ら変わり有りません。食害(食べられること)から逃れるため生きるために、時には毒で武装もします。

 ユズリハは葉や樹皮が有毒であり肝障害やマヒを起こすと言われています。フクジュソウは雪解けを待ちかねたように顔を出す小さな可憐な花ですが、その全体が非常に危険な有毒植物です。地面から出てきたばかりの新芽をフキノトウと間違えて食べて中毒を起こす例があり、重症の場合は死に至ったケースが報告されています。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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