生き物こぼれ話(その23)

 トマトが真っ赤に実っています。 トマトはナス科の1年草。原産地は南米アンデスの高原地帯とする説が有力です。

 日本で食用としてはじめて栽培されたのは明治初期ですが、日本人の好みには合わなかったのか、あまり普及しなかった。

 昭和初期頃になって、いわゆるトマト臭のない日本人好みの甘い品種が開発されました。食生活の洋風化とあいまって急速に普及し、今日では年間を通じて栽培されております。最近ではミニトマトに人気がある。

 同じ作物を同じ場所で連作すると多くの場合、作物に病気や栄養障害などが発生します(連作障害)。トマトはナスとならんで、連作をきらう代表的な作物です。

 そもそも連作すると何故そのような障害が起こるのだろうか? 自然の中で自生している植物はどのようにして連作障害の問題を克服しているのだろうか? 今回はトマトを素材にしながらそんなお話です。


 作物によっては連作しても大して支障のないものと、極端に障害が現れるものがあります。

 新たな土地でトマトを作る場合には、その土地に応じてそれなりに生長するが、同時に、トマトをターゲットとする病害虫が侵入してきて、豊富な餌を食べてその回りで大量に増殖することになります。若し特定の栄養素を要求する作物であれば、その土地周辺のその栄養素はどんどん欠乏して、不要物質だけが蓄積されることになります。

 このようにして、その植物にとっての必要な栄養素は枯れているうえに、その作物をねらう病害虫に囲まれている環境状態になります。このように考えると、同じ土地に単一の作物を続けて栽培した場合には、連作障害が発生するメカニズムがよく理解できます。

 連作障害を避けるためには、同一の土地には同じ作物を作らないよう輪作にします。作付けをあける年数(輪作年限)は、作物によって違い、ホウレンソウは1年。キューリ、ハクサイ、イチゴは2〜3年。トマト、ピーマン、メロンは4〜5年。ナス、スイカは6〜7年と言われております。

 発芽後一年以内に開花・結実・枯死する植物(一年生草本)たちは、病虫害防止のための設備投資にエネルギーを投入するよりも、毎年、種子散布という形で新天地へ移動する方を選択しました。しかしながら、散布された種子は必ず病原菌の居ない新天地に到達できるとは限らないのは当然です。

 農業では、土を使用する限り土中の病原菌を完全にシャットアウトすることは実質的に不可能、と思われます。そこで、水耕栽培という方法が開発されました。土壌を使わず、栄養分を含ませた水を循環させることによって栽培する方法です。連作障害の発生しやすいイチゴ栽培なども、そのような方法で栽培されるようになっております。

 ビニールマルチという方法も広く普及しております。土壌表面をビニールで被覆しておくと、太陽の直射で地温が上昇し、土壌中の菌類が死滅してしまう、という方法ですが、この方法は有用な土壌生物も減少させてしまうことになってしまうし、無菌状態の土壌の中では、かえって特定の生物が大繁殖してしまう危険も伴います。

 土中に大量の有機物が存在する豊かな土地は、連作障害を起こしにくいことが知られています。豊かで、調和がとれている健康な土地であれば、土壌中に多様な生物が生育・生息しており、単一の生物や病害虫の大発生を招きにくくなるためと考えられています。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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