生き物こぼれ話(その22)

 この写真はセイタカアワダチソウ(背高泡立草)です。キク科アキノキリンソウ属。北アメリカ原産の多年草。高さ150〜250センチ、晩秋頃に開花する。

 この植物が急速に広がったのは戦後で、いまでは道端や空き地、休耕田、河川敷、埋立地など、全国至る所に大群落を作って在来植物の生存をおびやかすまでになっております。

 その旺盛な繁殖力は脅威的で、この黄色い花がそのままタネになる。一本の茎から数万個のタネが作られる。タネには白い冠毛があって、無数の白いタネがまるでビールの泡が盛り上がっているように見えるところから、この名がつきました。

 日本の自然に侵入したエイリアンであり、嫌われ者の代表格ともいえる雑草。

 外国から来て爆発的に増えた帰化生物は、数多く有ります。植物ではセイヨウタンポポ、クローバ、ハルジオン、ヒメジオン。動物ではアメリカザリガニ、ブラックバス、ミドリガメ、タイワンリス、沖縄のマングース。昆虫ではアメリカシロヒトリ、アオマツムシ等など。アメリカシロヒトリの害はしばしば報道されますが、あれもエイリアンです。

 今回はセイタカアワダチソウを例にしながら、外国から来た生物はなぜこのように大発生しやすいのだろうか、そして今後の見通しはどうなのか、そんなお話です。

 セイタカアワダチソウは、開花時の鮮やかな黄色の花の美しさから、観賞用に栽培されていたものが野生化したといわれている。晩秋に咲いてミツバチの冬越し用の蜜源として有用だったことから、養蜂業者が各地にばら撒いたという説も有ります。

 このように爆発的に増えた最大の原因は天敵が不在だったためと考えられています。天敵は動物の場合もあるし病原体の場合も有ります。およそ自然界ではあらゆる生物に天敵があって、それによってバランスが保たれてきました。ところがセイタカアワダチソウが移入されたとき、原産地に居たような適当な天敵が日本には存在して居なかった。

 セイタカアワダチソウが生えている周囲にはほかの雑草があまり生えないという現象が見られます。同じことが、ヒガンバナ、ススキ、ヒマワリなどでも観察されます。これらの植物は地下茎や根で特殊な化学物質を作って周囲の土壌中に放出しています。それによって周囲の植物の発芽や生育を妨げ、自分の領域を広げようとしているのです(他感作用、アレロパシー)

 かくしてセイタカアワダチソウは、もともと持っていた猛烈な繁殖力とアレロパシー作用に加えて、天敵不在の別天地を得て、爆発的な増殖を続けてきました。

 ところが、近年になってさしものエイリアンの大繁殖にもやっと陰りが見えてきました。ついに天敵が現れたのです。動物の側から見たら、未開拓で残っている豊富な餌資源をみすみす放っておくのはいかにももったいないこと。これまでは全く虫食いも病気も無かったこの草が、蛾の幼虫による食害によって葉を丸ボーズにされる例が増えてきました。ウドンコ病もつきます。

 さらに自分が出したアレロパシー物質によって自身の発芽が抑えられることが分ってきました。かくしてこれまで無制限に増えつづけてきたエイリアンにも、やっと抑制が働いてきたと考えられております。

 なお、アレロパシー作用を農業に利用しようとする試みが各地で実行されております。たとえば、適当なアレロパシー植物を選んで果樹園の下草に利用すれば、人体や生態系に有害な除草剤をつかうことなく雑草の発芽を抑制できるし、これを有機肥料として利用することもできる。


こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。



(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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