生き物こぼれ話(その19)

 この写真は猛禽類のオオタカ(はく製)です。タカ目タカ科。全長50cm程度。昔の鷹匠が使う代表的なタカでした。
 餌は、ハト、スズメ、カラス、キジ、コサギ、ヤマドリ、カルガモ、リス、ネズミ、ウサギなどを捕食します。

 生息個体数は現在では1000羽未満と推定され、環境省のレッドデータブックにより、絶滅危惧種に指定されています。
 タカなどの猛禽類の精悍で力強い姿は、古くから洋の東西を問わず、力の象徴とされてきました。古代エジプトではハヤブサが太陽の神とされていました。

 アメリカインディアンの酋長が頭にかぶるイヌワシの羽飾りは、その超能力にあやかろうとしたものといわれております。アメリカの大統領の紋章は白頭ワシです。

 日本でも力の象徴として、ふすま絵や屏風などに数多くの鷹の絵が描かれてきました。戦国武将は、精悍でダイナミックな飛翔をするオオタカを、鷹狩りに好んで用いてきました。

このように勇壮無敵な力の象徴とも言えるような猛禽類ですが実は、自然環境の変化の影響を最も受けやすい側面を持っております。環境破壊には極めて弱く、健全な生態系の上にかろうじてその生存が成り立っております。


 このため猛禽類の盛衰は、環境の健全度を測るバロメータと言われております(環境指標生物)。今回はオオタカを素材にしながら環境指標生物についてのお話しです。

 植物やプランクトンが太陽のエネルギーを利用して育ち、それを微生物や昆虫が食べる。微生物や昆虫は水の中では魚に食べられ、陸上ではカエルやモグラ、小鳥などの小動物に食べられる。小型の魚はより大きな魚に食べられ、小動物はヘビやキツネなどのより大きな肉食動物に捕食されるという多くの食物連鎖の関係が有りますが、その食物連鎖の頂点に立つ鳥が猛禽類です。

 自然界の短期間での環境の大きな変化は猛禽類にとっては致命的ダメージとなります。餌となる生物の数が急激に減少してしまえば、ヒナを無事に巣立たせられないどころか、産卵すらできなくなります。
さらに、環境中に残留する農薬などの有害物質は、例えその段階では濃度が低くても捕食関係が繰り返される度に濃縮されていくため(生物濃縮)、その最上位に立つ猛禽類の体内には必然的に有害物質が高濃度に蓄積されていくことになります。

 猛禽類が生息するためには、自然環境が安定的・持続的な生産能力を持っていること、残留性の高い有害物質によって環境が汚染されていないなどの条件が不可欠なのです。つまり猛禽類は、食物連鎖の頂点に立つがゆえに強さと弱さを併せ持っている、と言ってもいいかも知れません。

 世界の猛禽類のうち約15%がいま絶滅の危機にあるといわれています。人間活動による自然環境の急激な改変、残留性の高い有害物質による環境汚染等により、多くの猛禽類が絶滅の危機に直面しています。
猛禽類は数が少なく貴重種だから守るのみならず、猛禽類の保護を通じて、その猛禽類が生息する良好な生態系そのものを維持・保護することにもなるのです。愛知万博は当初予定されていた瀬戸市の海上の森でオオタカの営巣が発見されたため、開発規模を縮小して会場が変更されました。

 生物はそれぞれが生息環境に適応することによって、多様な生態系に分化し繁栄してきました。環境の変化に敏感な性質を持つ種を指標としてその分布状況等の調査をすることによって、地域の環境変化を類推・評価することができます。指標生物には、鳥類や昆虫や小魚等の動物と樹木や草花等の植物があり、タンポポも指標生物です。
 
 海ではアオサ、フジツボ、ムラサキガイ等、かつて猛禽類は超自然的な存在として人々に畏敬の念をもって仰ぎ見られてきました。今日では人間活動による自然破壊のバロメータとして、人間たちに警告を送り続ける役割を併せ持つに至っております。なお猛禽類とは、タカ目とフクロウ目に属する鳥の総称です。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。



(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


戻る