生き物こぼれ話(その16)

 この写真はエゾシマリスです。リス科シマリス属、北海道全域と利尻島、国後島に棲息しています。

地面に巣穴を掘って生活する。食性は基本的には植物食で、種子、果実、花、芽、葉、樹液などを食べるが、昆虫などを好んで食べることもある。10月から4月にかけて冬眠します。

植物も動物もあらゆる生物は、厳しい寒さと食糧の欠乏に見舞われる冬を乗り切るために、いろんな方法を開発してきました。


 冬眠もまたそのような工夫の一つです。冬眠とは動物たちが厳しい冬を乗り切るために、永い進化の歴史の中で編み出したもので、日々のエネルギー消費量を最小限に抑える戦略と考えられます。例えて言えば、山で遭難したハイカーが乏しい食料を少しづつ必死に食いつないで、体力の消耗を防ぎながらチャンスを待つのに似ているかも知れません。

 冬眠状態に入った動物は、体温が低下するだけでなく、心拍数や呼吸回数も大幅に減少します。写真のシマリスの場合、冬眠状態では体温が0℃近くにまで低下します。これによって心拍数や呼吸回数を40分の1に減少させることにより、エネルギーの消費量を通常の8分の1にまで減らすことができると言われております。 

もともとが冬眠とは、外気が低温になった時に、仮死状態になって栄養分の消費量を少なくする工夫ですから、程度を誤まったり冬が永いと本当に死んでしまうという危険と隣り合わせの戦略です。
冬眠する動物と冬眠しない動物の違いについてお話しましょう。

 爬虫類や両生類のような変温動物(冷血動物)は全て冬眠します。体温の調節機能を持たない変温動物は、体温が外気の温度によってもっぱら左右されることになります。外気温が下がるにつれて体温も低下していき、仮死状態になって冬を越します。仮死状態になっても僅かなネルギーは消費しますから、冬眠前には充分な栄養を体内に蓄えます。

 鳥類には冬眠するものは有りません。その理由は次のように考えられています。鳥類は爬虫類から進化していったと考えられていますが、その過程の中で体を極端に軽くする必要がありました。そのため体の躯体部分の骨は中空にしました。歯は止めてくちばしにして食べ物は丸呑みするようにしました。また内臓器官はうんと簡略にしました。そのため食い貯めができないのです。

 鳥類は飛べるという能力を獲得しましたが、それと引き換えにする形で、常に食べ続けなければ生きていけないという宿命を持つことになったので、冬眠ができないのです。
冬期に生活できるためには常に採餌できることが必要であり、代謝を維持するためには大型の体が適していると考えられます。冬の鳥にはワシ、タカ、キツツキ、ツル、ガン、等、比較的大型の鳥が多いのはこのためです。一方で冬季に採餌できない鳥は南方に渡りをするようになりました。 

 次に、哺乳類には冬眠するものとしないものがあります。この2つの違いは、冬場に充分な採餌ができるかどうかであると思われます。当然ながら必要な採餌ができるものは冬眠する必要がない。このため、冬眠するのは、リスやヤマネ、ネズミの仲間のように、危険を冒しても冬眠しないと冬期を生き残れない小形の動物たちに多いと思われます。鳥類と比べて哺乳類の方が食いだめにより体内に脂肪を蓄積しやすいということも、冬眠を可能にしている要因と思われます。

 毎年秋になると、冬眠前の充分な栄養が採れなかったクマが人里に降りてきて被害をもたらす、というような記事がしばしば新聞に載りますが、クマは単にうつらうつらと寝ているだけで、冬眠とは別のものです。このために、正確には冬眠ではなく「クマの冬ごもり」と呼びます。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。



(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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