生き物こぼれ話(その10)
 この写真はナナホシテントウムシ(七星天道虫)です。全長7〜8ミリ。赤と黒の良く目立つ七つの斑紋を持ち半球の体形も可愛いところから、若い女性にも人気が高い。別名アネコムシ、またはヨメコムシ。太陽を目指して羽ばたくように感じさせるのが名前の由来と言われています。

 植物に害を与えるアブラムシ(アリマキ)、カイガラムシを食べてくれる益虫でもあります。最近では、無農薬農法を試みる農家が温室などに放っている例が有ります。

 ヨーロッパでは、ladybird beetle(淑女の甲虫)と呼ばれ、幸福の使者とされてきました。

 ギリシャ神話では牧羊神のアクセサリーになっていて、洋の東西を問わず、好感を持たれてきた昆虫です。テントウムシはこれまでに世界で3000種以上が発見されています。
 今回は私たちが日常の生活の中で目にするホタル、アリ、カマキリなどの昆虫についてのお話しです。


 都市化の進行と共に各地のホタルの名所がどんどん少なくなってきております。初夏の夜、滋賀県や京都では大小2種のホタルが飛び交い、「ホタル合戦」と呼ばれる不思議な現象がありました。先人たちはこれを源平合戦にちなんで、大きくて光の強い方をゲンジと呼び、小さくて淡い光の方をヘイケと呼びました。だれでもが知っている簡明なネーミングであるため、すっかり馴染み深いものになっております。

 ゲンジボタルとヘイケボタルの幼虫は水の中でカワニナという巻貝を食べて育ちます。したがってホタルが生育できる環境を創るためにはまず貝が育つ環境を作ります。ゲンジボタルなどは卵、幼虫、さなぎ、成虫などの一生を通じて光ります。成虫の明滅光は主に異性とのコミュニケーションに使われると考えられています。

 ホタルは地中や水中で一年間成長します。成虫になったあとは殆んど餌を取りません。寿命は5日間位ですがクモやコウモリなどのいろんな天敵につかまるため平均したら3日間位の生命と考えられています。その間に交尾して子孫を残さねばならないのです。

 次にアリの働きについてお話ししましょう。桜やドングリの木の枝先にアリがびっしりと集まっているのを見ることがありますが、桜の木は葉の根本つまり葉柄の蜜腺から蜜を出し、これに集まるアリに依って植食性昆虫からの食害を防衛して貰う、見事な利益の交換が行なわれています。

 アリは餌を巣に運ぶ習性があるので、小型の植物の種子散布に大きな貢献をしています。両者の間には花粉媒介昆虫(ポリネータ)と、虫媒花の関係に似た共進化の関係が成り立っています。アリは体が小さいので種子を運ぶ距離はたかが知れているから、鳥などの長距離散布に比べたら不利なように思われます。しかし、植物によっては生育するための水はけ、温度、湿度、照度などの環境条件がかなり限定されているので、距離の短い種子散布の方が有利な場合も有ります。

 次にカマキリの不思議な積雪量予測のお話しをしましょう。北陸などの雪の多い地方には、古くから「カマキリが巣を高いところに作った年は大雪になる」という言いつたえがあります。カマキリの卵は冬の低温を耐え抜くような構造になっていますが水には弱い。雪溶けのときに卵が水浸しになってしまうと孵化ができない。そこでその年の積雪の深さを予測して、雪に埋もれない高さに卵を産んでいると考えられます。

しかし本当にカマキリにそのような能力があるのだろうか? これは長い間の観察の積み重ねで、かなりの確率で当ることが実証されています。秋に卵を産むカマキリがどうしてその年の大雪を予知できるのだろうか? 考えられるキーワードの一つは湿度です。

人類などの哺乳動物は、光や音、温度、匂い、味などのセンサーを持っていますが、湿度のセンサーは持っていない。ところが昆虫には湿度専用の感覚器官を備えたものがあります。この違いがどう作用しているのか? 昆虫は人知の計り知れない多くのナゾに満ちた生物です。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

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