生き物こぼれ話(その9)
 この写真はトノサマガエルです。アカガエル科、両生類。準絶滅危惧種。両生類とは太古の昔に、脊椎動物のなかで初めて四肢をそなえて陸に上がったグループです。つまり魚類と爬虫類の中間に位置する系統です。

 両生類はやがて爬虫類、さらに鳥類へと進化していったと考えられています。両性類は陸上進出は果たしたものの完全にそこだけで生活できるまでには至っていない中間的な種です。

 よく間違われるのですが、両生類とは水中と陸上のどちらにでも住めるのでなく、水中と陸上の両方の環境がないと生きていけない種なのです。

 カエルはその生態からして、環境変化の影響をもろに受けるようになっており、環境指標動物とされています。今回はカエルを素材にしながら、両生類というものの生活についてのお話しです。

 両生類が爬虫類、鳥類と決定的に違うのは卵です。鮭の子のイクラと、田んぼでみかけたカエルのたまごを思い出して見て下さい。どちらも卵が固い殻に保護されることなく、殆んど剥き出しの裸の状態で生み出されます。このため乾燥から守るため水中で産卵しなければならないのです。

 陸上に進出してはみたものの、そこは生存のためには水中よりもはるかに厳しい環境だったのです。水中と違って浮力がなくなるので、自身の重力に耐えねばなりません。魚のような単純な背骨では直ぐにバラバラに外れてしまうから、背骨の一つ一つががっしりと結びあう構造になりました。

 水中では口をあけて泳いでいれば餌は水と一緒に入ってくるが、陸上では積極的に探して噛みつかなければ餌がとれない。そのため頭を左右に振れるようになりました。

 両生類の大きな特徴は変態です。昆虫も変態するが両生類の場合は程度が違う。おたまじゃくしとカエルの両方を思い出して頂ければいいが、極めて短い時間のうちに水生の幼生は陸上の幼体に変化します。変態の前後で移動の仕方、呼吸方法、餌の取り方など、生活の殆んど全てが変化します。

 カエルの外形的な特徴は、顔の外側に飛び出した大きな目と、大きな口、そして自身の身長の何倍も飛び上がるジャンプ(跳躍力)と言えると思いますが、これらは全てカエルが極めて平和主義に徹した動物だったためと考えられています。

 カエルには多くの天敵がいます。敵に襲われたら闘って身を守るのではなく、敵の目をくらましてひたすらに逃げることにした結果、驚異的なジャンプを生み出しました。カエルは小さな動物は何でも食べますが、餌を見つけたら敵に見つからないうちにすばやく効率よく捕まえなければならない。そのため口を一気にあけて餌を丸のみできるよう顔一杯の幅のある巨大な口になりました。顔の外側に飛び出した大きな目は、常に敵の気配を伺いつつ行動するために発達してきたと考えられています。

 次ぎに環境指標の方のお話しをしましょう。カエルの卵は固い殻を持たずに水中に生みはなされるから、幼生期には水中に溶け込んだ酸性雨や残留農薬の影響から逃れることが出来ません。変態して陸に上がってからは薄い皮膚を通して呼吸しているので、大気汚染の影響を直接に受けることになります。一方、カエルの天敵はヘビなどの爬虫類、トビなどの鳥類、タヌキなどの哺乳類と多肢に亘っています。従って食物連鎖のうえで、極めて複雑な生態系のただ中にいることになり、カエルの繁栄状態は生態環境の状態を大変忠実に反映していると考えられます。

 こうした状況から、現在9種のカエルが絶滅の恐れのある野生生物として、環境省のレッドデータブックに登録されています。カエルの減少や絶滅は、いつかは人間を含む他の生物にも遠からずその順番が回ってくることを警告していると考えられます。

 この地球をかつてはカエルが住んでいた星にしてはならない。そのためには、多くの生物が共存していける状態、即ち生物多様性の確保がひいては人類の将来を守ることにつながっているのです。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

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