生き物こぼれ話(その8)
 この写真は世界遺産・屋久島の縄文杉です。国指定特別天然記念物、樹高25.3m、胸高周囲16.4m。

 これまで確認されている最大の屋久杉です。背が低いずんぐりした樹形は台風の常襲地帯に育つ屋久杉の特徴をよく表わしています。

 公園や神社のご神木と呼ばれるものには20mを越えるものが一杯有りますし、世界では、樹高100mを越えるものも多く発見されています。

 動物なら心臓というポンブがあって体の隅々にまで血液を送っていますが樹木にはそのような器官がない。しかし樹木といえども、生きていくためには体の隅々まで水や栄養分が送り届けられなければならない。そんな高所までどうやって送っているのだろうか? 

 人間なら足が2本有って胴が有って手が2本、手の指は5本。内側から親指、人差し指、中指、薬指、小指、という順番で数と形が決まっています。ところが街路樹にもみられるように、樹木は枝の数も位置も形も個体によってみんなバラバラです。この違いは何故だろうか? 今回はそんなお話しです。

  水が高く上昇するのは、葉の働きが深く関わっています。一気圧のもとでは水柱は10メールしか上がりません、土中の水分はいろいろの栄養分と共に地中の根に取り込まれます(浸透圧)。 その水は幹の中の維管束という管を通って枝先の葉まで達します。樹木全体で見ると、根から幹を通って葉までつながった導菅の中に水が満たされて、一本の水柱が出来ていることになります。

 葉では太陽の光を受けて、常に大量の水蒸気が大気中に蒸散していっており、このとき水柱を強く引っ張ることになります(蒸散圧)。 強い力で上に引っ張られたとき、水柱が大変に細いため水の分子同士相互の力(凝集力)が働いて、水柱が途切れることなく引っ張り上げられるという仕組みです。ストローを使ってソーダ水を飲むような場合と同じです。

 つまり、葉では水と空気を原料にして光合成によって炭水化物を合成すると同時に、その水の蒸散力を利用して、地中から絶え間なく水を吸い上げているのです。かつては、根が水を押し上げているのではないかと考えられていたこともありました。その場合には根に強力なポンプがなければならないが、そのようなものはどの植物にも有りません。

 植物には根、茎、葉という3つの器官しか有りません(花は葉の変形したもの)。そんな単純に見える生物ですが、実はこのような巧妙な仕組みを持っているのです。

次に、樹木に限らず植物は一ヶ所に定着して生活する型の生物であるため、生活する環境に自分の身体の方を合わせなければ生きていけないという宿命があります。もし、生まれる前から身体の形が決まっていると、生えてきた場所とうまく合わない可能性がある。そこで植物はまずいったん生えてきてみてから周囲の様子を見て、自分の体の形はその場所の環境に合わせて決めることにしました。

つまり、風の強いところでは倒されないように背を低くして、日の差す方向にはより多くの枝を伸ばすように、水分の有る方法にはより多く根を伸ばして。かくして木の形は個体によって皆んな違うことになったと考えられております。人間なら指や手を失ったらそれ以上生えてくることは有りませんが、樹木は枝を切って挿し木にしておくだけでもやがて根付いて、立派な樹木に成長できます(分化の全能性)

樹木が何故、何十メートルという高さまで巨大になるのか、そこまで伸びるメリットは何なのか? 残念ながらそれらは未だ判っておりません。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。


(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

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