生き物こぼれ話(その5)
 この写真は沖縄のマングースです(食肉目マングース科)。体長は20〜60センチメートル。イタチに似ている。

 雑食性で環境適応力と繁殖力に優れていて、かつてハブ対策の決め手とされ、人為的に導入されました。

 ところが今、環境省の外来種対策モデル事業の一つに位置付けられ、国と県を挙げて、全頭徹底駆除が進められています。

 そもそも外来種問題とは何なのか、どうしてこんな事になってしまったのか、今回は沖縄のマングースと小笠原のヤギを例にしながら、そんなお話です。

 マングースはアラビアやインドを原産としています。19世紀の後半にネズミ駆除のためにハワイやフィジーで導入されましたが、農業被害や家禽被害が目立っておりました、

 日本にはハブ駆除のために、沖縄本島に1910年代に約20頭、奄美大島には1970年代に約30頭が導入されました。その雑食性・繁殖性をフルに発揮して、ニワトリやアヒル、野鳥などを襲いながら次第に数を増やしていきました。ついに1万数千頭を超えてなお増え続けております。

 昼行性のマングースは夜行性のハブと出会うことが少ないため、本来の目的だったハブ駆除には役立たないばかりでなく、ハブよりも簡単に捕ることができるアマミノクロウサギや、ヤンバルクイナなどの貴重な動物たちを襲い、ついにこれらが絶滅の危機に瀕するにいたっております。

 つまり、ハブ退治の救世主のはずだったのが、今や貴重な生態系を破壊する恐るべき侵略者となってしまったのです。マングースを導入する時点での自然生態系への判断の誤りが、永い月日を経て禍根を残すことになったのです。

 環境省は4年間の調査期間を経て、ついに2000年度からマングース駆除事業に乗り出しました。これまでの4年間で約11000頭を捕獲しました。外来種駆除は早期発見、迅速対応が必須条件ですが、対策が後手ごてに回ってしまったのです。

 野生生物の特定の種だけを根絶するということは大変な時間と労力を要します。累積の捕獲数が増加して根絶が想定されるに至っても、さらに数年間は手を緩めることなく捕獲圧を掛け続けなければ、すぐにまた復活してしまいます。

つぎに小笠原諸島のヤギの場合です。小笠原の無人の島々には数千頭のヤギが生息しているといわれています。このヤギは江戸時代の末ごろ、アメリカの捕鯨船などが万一の遭難に備えて、食料を確保する目的で放したといわれています。

 そしていま、増えつづけたヤギは島のあらゆる草木を食べ尽くして、島全体が裸山と化してしまい、雨が赤土の土砂を押し出して各地で崖崩れを起こすに至っております。捕獲するにももともとが無人島であり、裸と化した島は登るのも危険であるため有効な手立ては見付かっておりません。

 外来種とは、本来はそこに生息していなかったが外部からもたらされた生物種を言います。従って国内での移動、例えば内地の種が小笠原に導入されれば外来種ということになります。

 移入種、外来種、帰化種といろんな言葉があります。環境省では「移入種」と言ってきました。国土交通省では「外来種」を用いてきました。 既に定着してしまったものという部分を特に強調したいような場合には「帰化種」という用語が使用されますが、意味に大きな違いは有りません。「外来種」という用語は外国から来たものというイメージが強すぎるのですが、近年はこれが一般的になってきたようです。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

(財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

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