生き物こぼれ話(その4)
この写真は沖縄・慶良間諸島の海のサンゴ礁です。

 サンゴの林の中ではいろんな魚たちが泳いでいます。サンゴは海底にしっかりと根を張ります。

 森林状に枝を伸ばして多くの生命を育んでいますが、実は植物ではなく動物です。

 海の中は、大きい魚は小さい魚を食べ、小さい魚はさらに小さい魚を食べるという食物連鎖の世界です。では一番小さい魚は何を食べているのだろうか? 今回はそんなお話です。

 小学校の頃、足があって動きまわるのが動物で、根が生えていて動かないのが植物だといって説明されてきました。ほとんどの場合はそれで間違いはないのですが、動物と植物の厳密な定義はそれとは少し違うのです。

 生き物の中には、自分が生存していくために必要な栄養素の大半を、自身の体内で合成してしまうものがいます。原料は周囲に無限に存在している水と空気です。これを独立栄養体といいます。一方、自身では栄養素を合成する能力はなく、栄養源としてはもっぱら他の生命に頼っているものがいます。これは従属栄養体といいます。

 そこで、独立栄養体のことを一般的には植物といいます。 栄養合成を担当する工場はもちろん葉緑素です。工場を動かすためには動力源が必要です。植物の栄養合成工場の動力源は降りそそぐ太陽光エネルギーです。従属栄養体のことは動物といいます。

 サンゴの場合には葉緑素を持っておりません。栄養源は周囲の海水中の生き物を触手で集めて口に運びます。従ってサンゴは植物ではなく動物なのです。海の中から地上に進出した最初の生命体は動物ではなく植物だったといわれていますが、それはこの栄養源の違いからも説明されます。

 次に、海の中で一番小さい魚が食べるのは藻類(そうるい)です。藻類とは主に水中で生活していて、葉緑素を持っていて自身で光合成できるものを言います。つまり海の中の植物と考えて頂いても良いと思います。藻類は地上の植物と同様に、周囲に無限に存在する水と、水の中に溶け込んでいる空気を原料とし、太陽光をエネルギー源として、栄養素を合成しているのです。

 藻類の中で最大のものは昆布やワカメですが、多くの藻類は1ミリの数百分の一、数千分の一というような顕微鏡の世界の大きさです。藻類は環境適応性が非常に大きく、海水・淡水のどちらにも生きていますし、南極の氷の下にも生きています。温泉などで手が入れられないような熱いお湯の中に、緑色のコケ状のものが生えていて驚かされることが有りますが、あれも藻類です。

 石油、石炭、天然ガスは化石燃料と呼ばれますが、このような地下資源は、はるかな太古の昔に、藻類の大活躍があって生まれました。もし藻類が無かったら自動車や飛行機も動かないのです。

 かくして、地上でも水中でも、この地球上に生きるすべての生命体の根源は葉緑素のもつ光合成機能だったと考えられています。もし葉緑素がなかったら一切の生命は存在しなかったし、この地上は写真で見る月や火星の世界と同じように、果てしなく荒涼たる景観を呈していたことでしょう。

 人間が生活の場に多くの植物を求め、緑の多い生活にあこがれるのは、生命が誕生して間もなくの太古の昔への郷愁の片鱗が、いまなお遺伝子の中に伝えられているのかも知れません。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

 ( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )


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