この写真は多摩動物公園のアフリカゾウです。長鼻目(ちょうびもく)ゾウ科。ゾウは体重が3〜7トンに達する地上最大の動物です。体高はキリンに次いで2番目。
ゾウの特徴は何と言っても、地面まで届く長大な鼻と、偉大な牙、巨大な耳です。
この長い鼻で、餌を摂ったり水を飲んだりしますが、なぜゾウだけがこのように長大な鼻を持つことになったのだろうか? この巨大な耳はどんな役割を果たしているのだろうか? 今回はそんなお話です。
ゾウもちろん最初からこんなに大きかったわけでは有りません。どんな大形動物であっても、かつてはネズミくらいの大きさの時が有ったのです。それが長い年月をかけて今の形に進化してきました。
どんな動物でも口が地面に届いた方が何かにつけて便利に決まっています。馬は地上に届く長い首をのばして草を食べます。シカもそうです。キリンは体高に見合った長さの首を持っています。ところがゾウだけは首を長くできない特別の事情があったのです。
ゾウは2本合わせると約200キロ程度になる牙を持っています。ゾウの背の高さは3〜4m位です。もし地面まで届く首を持っていたら次のように例えることができるでしょう。3mの長さの堅い棒の先端に200キロの砲弾をぶら下げて、棒の根元を持ってこれを持ち上げるのです。
普通の大人の力では多分持ち上がらないでしょうし、それ以前に、重さに耐え切れずに棒の方が折れてしまうでしょう。首を支えて動かしている筋肉と、首の骨の強度には自ずと限界が有ります。つまり地面まで届く長い首とあの重い牙は両立しないのです。
かくしてゾウの祖先は、2者択一の選択を迫られることになったのです。その結果、地面まで届く長い首の方は諦めました。そして地面の餌を摂るためには新たな手段を開発することにしたのです。その結果があの長い鼻を生んだと考えられております。
次に巨大な耳の方のお話です。多くの動物は汗が蒸発する時の気化熱の力で体温の調節をしておりますが、ゾウには汗腺が無いのでこれが出来ません。そこでゾウは、たくさんの血管を耳に集中させて空気中に放熱することにしました。つまりゾウの耳は聴覚だけではなく、体温調節の役割も果たしているのです。
哺乳類と鳥類の体温は年間を通じて一定です(恒温動物)。そもそも動物の体温は、生きていることによる体内での発熱量と、皮膚表面からの放熱量との均衡で決まっております。
体内での発熱量は細胞の数、即ちおおむね体の大きさに比例します。放熱量はおおむね体の表面積に比例します。ここでサイコロのような立方体を考えてみて下さい。1辺の長さが倍になった場合には、体積は8倍になるが表面積は4倍にしかならない、ことがお分りと思います。
つまり体が大きくなるにつれて、発熱量の増加に放熱量の増加が追いつかなくなります。人間や馬の場合には汗腺があってそこからの気化熱でその差を補っていますが、ゾウには汗腺がないのでそれが出来ません。そのため発熱量と放熱量の差が24時間どんどん蓄積されていきますから、そのままだったら、自分自身の発熱のためゾウ肉ステーキ(?)が出来上がることになってしまうのです。
そこで、体積が小さくて表面積が一番大きい形とはどんな形でしょう? それは何処に置くと一番放熱効果が大きいでしょう?
ゾウの耳とは血管をそこに集めて集中空冷しているラジエータなのです。同じく汗腺を持たない犬の場合には、口を開けてそこからの気化熱によって体温調節をしているのはご承知の通りです。
このようにして、恒温動物は体温調節のためのいろいろな方法を開発してきました。
こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。
( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小原芳 郎 記 )