生き物こぼれ話(その2)

ウツボカズラ

 この写真はウツボカズラです。ウツボカズラ科。常緑つる性の代表的な食虫植物です。捕虫袋に虫を誘い込み、入り込んだ虫を溶かしてそれを栄養分として成長します。原産地は南アジア。

 食虫植物を私たちの日常生活圏の中で見ることはまず有り得ません。そもそも植物が虫を捕らえて餌にするなどということが何故起こったのだろうか。

 今回は、植物や動物たちの、生きるための戦略についてのお話しです。

 野生の生物の世界はつねに、捕食者と被食者の関係にあります。植物は足がないから何が起ころうとも逃げることができません。つまり植物とは、常に動物によって食べられる側だったのです。
 一方、野生の雑草の世界をみると、そこは植物どうしの生存競争の世界です。競争にやぶれた植物は、痩せた栄養のない土地に追いやられました。つまり崖地や砂地の土地です。

そのような土地に追いやられた食虫植物の祖先は、本来なら根で地中から得ているはずのリンやミネラルの栄養源を他に求めました。飛んでいる虫や小動物を誘い出してこれらから摂ろうとしたのです。つまり、これまでの食べられるだけだった関係を逆転したのです。

鹿の写真 この写真はウツボカズラの捕虫袋の部分です。この中にはたんぱく質を溶かす消化酵素が入っています。甘い香りに誘われてきた虫は、ぬるぬるした捕虫袋のヘリから中に落ちるようになっているのです。ご丁寧なことに、雨の日には消化酵素が雨水で薄まらないように、蓋まで用意されています。

 捕虫袋の中に落ちた虫の方は文字通り命がけで暴れますから、ときには捕虫袋を破られることが起こります。つまりこの作戦は、植物の側から見たら、コストとリスクが大きい割りにはリターンの少ない戦略と考えられます。このような訳で、私たちの日常の生活圏では食虫植物を見ることはないのです。

 日本では20種類位の食虫植物があります。世界中では約600種類の食虫植物が発見されているそうです。
 次に、動物の側の例を紹介しましょう。鹿の前足と後ろ足をご覧下さい。前足は真っ直ぐに立ってしっかりと体重を支えています。後ろ足は少し折り曲げた状態になっています。

 鹿のような草食獣は肉食獣に追われたとき、いち早く危険を察知し、す早く逃げられるかどうかが生と死の分かれ目になります。

 そしてそれを決めるのは、スタートダッシュとコーナリングの能力です。短距離競争のスタートの風景を思い起こして下さい。 選手は手をつき、充分に足を曲げています。

スタートの合図とともに、選手は足を思い切り伸ばしてそれによって大地を蹴って飛び出すのです。つまり鹿の足は、危険を感じたらいつでもスタートダッシュできる体勢になっているのです。
 次にキノコの例をお話しましょう。いろいろなキノコが毒を持っていることは良く知られています。キノコの傘は胞子を散布して子孫を増やすための大切な器官です。足を持たないキノコは逃げることができません。そこで動物による食害から胞子を守るために、キノコは自らが毒で武装したのです。

なお、キノコはスーパーでは野菜のコーナーに並べられていますが、実は植物ではありません。それについてはまた別の機会にお話させて頂きます。

こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳郎 記 )

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