生き物こぼれ話(その1)
キタキツネの写真 この写真は北海道ルペシベのキタキツネ公園のキタキツネです。映画ですっかり有名になりました。食肉目イヌ科。

 キツネは現生する哺乳類の中で最も分布域が広い動物の一つで、いろいろな環境で生息しています。体色はいわゆる「きつね色」。食肉目の常で運動能力は高い。
 夜行性。昼は巣穴で眠っていることが多い。小鳥、ノウサギ、ノネズミ類、昆虫などを捕食する肉食動物であるが、果物など植物質のものも食べます。野生状態での寿命は大体3〜4年程度と考えられています。
 一度に平均4頭の仔を出産し育てます。一度に生まれた仔でも性格は一様ではなく、いろいろな性格の違いが有ることが観察されています。

 世のお母さんたちが、こんな会話をしているのを聞いたことが有りませんか? 「うちの子供達はおんなじ環境でおんなじ様に育てたはずなのに、みんな性格がちがうのよ!」

 生物は多様な仔を作ることによって、種の存続を図ってきました。例えばキツネやタヌキは、山の斜面などに掘った巣の中で、一度に数頭の子どもを育てます(これを座巣動物といいます)。一度に生まれた仔たちでも、通常、みんな性格や行動が違うのです。

 一方、野生動物の世界には必ず天敵がいます。つまり座巣動物は毎日が常に、捕食者に襲われる危険と背中合わせに暮らしています。襲われたとき、巣の中では当然ながらパニックが起ります。ビックリして巣の奥に逃げ込むヤツ、明るい所すなわち入り口方向に向かって飛び出していくヤツ、あわてて木に登るヤツ、はたまた腰を抜かしてその場にへたり込んでしまうヤツ。

 突然のパニックに際して、どれが助かるかは誰にも分かりません。全ての仔が同じように穴の奥に逃げ込んだら、多分全滅でしょう。襲って来たのが木に登る動物だったら木に登ったのは逃げ場を失ってしまうでしょう。腰を抜かしてしまって声も出せずに震えていたら、襲撃者は気が付かないで立ち去ってしまうかも知れません。このように、子どもが何頭いてもみんな性格が違うことによって動物は全滅を免れ、種の存続を図ってきました。

 植物の世界でも同じことです。梅の木の枝にはたくさんのつぼみが付きますが、それらが一斉に開花することは有りません。もしそうなったらそのとき強風が吹いたり、洪水に遭ったりしたときに全滅してしまいます。桜の場合には、現在の開花は何割というような言葉が有ります。季節はずれの時期に咲くことを狂い咲きなどと表現したりしますが、時間的に段差をつけて開花することによって、種の存続を図ってきました。

 秋にこぼれた花の種が翌年に一斉に発芽することは有りません。運ばれた種子の何%かは何年でも土の中で時を待ってから発芽します(埋土種子)。おたまじゃくしが蛙になるのにも早いのと遅いのがあるのも、みんな同じ理由なのです。

 このように、動物なら性格が違い、植物なら時間的にずらすということは、個体間の差異(個体差)の一つです。個体差とは、何十億年という永い進化の歴史のなかで、種の存続のためにあらゆる工夫を重ねてきたその成果なのです。言い換えれば個体差が有るから種が存続してきました。動物のひとつである人間の場合には個人差と呼ばれますが事情は全く同じです。

 こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。

( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳郎 記 )


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