2005年04月05日

生き物こぼれ話(17)

       雑草のお話
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この写真はクローバです。和名はシロツメクサ。マメ科。ヨーロッパ原産の多年草です。
学校の校庭にあるいは道端に、多分どこにでも生えている雑草です。トランプのクローバはこのクローバをデザインしたものです。
雑草のようなたくましさなどという表現をしばしば見かけます。農業は雑草との戦いとも言われます。雑草は何故逞しいのだろうか? 雑草はなぜ嫌われるのだろうか? 今回はクローバとクズ(葛)を素材にしながらそんなお話しです。
クローバは江戸時代に日本に来て定着した外来種です。長崎のオランダ人が将軍にギヤマンのグラスを献上しました。今ならきっと緩衝材として発泡スチロールに包まれているのでしょうが、緩衝材として白い干し草が一杯に詰めてありました。中身を取り出してあとに残ったその白い干し草はそのまま庭に打ち捨てられました。そこからこぼれ出た種子が発芽しやがて全国に広がっていきます。これがシロツメクサの語源と言われています。
クローバは、栄養豊富な牧草としてさかんに栽培されました。一方これを乾燥させたものは積荷保護のためのパッキングとして広く使われました。このようにしてクローバはそれぞれの国で固有の名前を与えられながら世界的に分布域を拡大していきました。
次にクズ(葛)はつる性の多年草。原産地は日本。クローバと同じくマメ科です。植木や垣根などに巻きついて伸び、長いのは10メートル程にも達します。その成育は極めて旺盛で、しばしば植物を覆ってそれを枯らしてしまうほどです。
19世紀末にがけや斜面の土壌保護のために、クズが日本から北米に導入されました。ところがこれが周囲の在来種を駆逐して増え続ける強力な雑草になってしまったのです。今日ではジャパニーズ・グリーンスネークと呼ばれ、その防除が大きな問題になっています。クズは英語名もクズ(kudzu)と言います。
クズの根はサツマイモの様に塊根を形成してデンプンを蓄えます。これをつぶして粉にしたのがクズ粉です。茎は繊維を取り出して織って葛布(くずふ)にしました。葉は飼料として利用されます。今日くず餅として売られているものの材料は殆んどが馬鈴薯デンプンだそうです。
クズはその旺盛な成長力の故に、バイオマス(エネルギー源または工業原料として利用する生物体)研究の有力な候補の一つとされています。将来、地下資源が枯渇するときが来た時、再生可能な良質のエネルギー源とされているかも知れません。
雑草が嫌われる理由は一杯ありますが、作物の養分・水分・日光などを横取りするので、作物の収量を低下させる。収穫した作物の品質を低下させる。病虫害の中間宿主となって病虫害の仲立ちをする。街の美観を損ね快適な市民生活の障害となる等。
雑草は何故逞しいのかをお話ししましょう。地面にはありとあらゆる種類の植物の種子が飛来します。それらのいくつかは発芽し、やがて過酷な生存競争を繰り広げることになります。地質や乾燥、日照の状態、気温の条件などあらゆる環境にもっとも適合した種だけが、他の種を押さえて一族繁栄を勝ち取ることになります。かくてその土地に適合出来なかった種は滅び、その土地に最も適合した種だけが成長することになるのです。
言い換えれば、その地で最も育ちやすい種が大繁茂しますが、それは往々にして人間にとっては有用な植物ではないため雑草と呼ばれることになるのです。これは雑草の本質を考えるうえで多くの人が見落としていることです。繰り返しますが、雑草がたくましいのではなく、競争に打ち克って生き残ったけれど人間にとってはさして有用ではない植物を雑草と呼んでいるのです。
なお、四つ葉のクローバを見つけると幸せになる、という言い伝えが有りますが、植物的にはクローバの四つ葉は野生状態で一定の確率で発生する単なる奇形です。
こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。
               ( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

Posted by omni at 2005年04月05日 07:52 | トラックバック
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