2005年02月20日

生き物こぼれ話(その14)

     街路樹のイチョウはギンナンをつけない

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この写真はイチョウです。イチョウ科イチョウ属、中国原産の落葉高木です。高さ30〜40m、直径5mくらいまで成長する。六世紀半ばに留学僧が観音像と共に持ち帰ったと言われています。そのため、寺院の境内に多く植えられています。
今日では東京都の都の木、神奈川県の県の木、大阪府の府の木、東久留米市や大田原市では市の木に指定されています。 成長が早く公害に強いうえ刈り込みに耐える性質から、各地で街路樹に選定されました。今日では街路樹のなかで一番多い樹種とされています。

イチョウはオスの木とメスの木が有ることでも知られております。誰にも非常に馴染みの深い木ですが、実は生きている化石とも言われる植物です。今回は身の回りに有りながら、多くの話題に満ちたイチョウの木のお話しです。
イチョウは加工しやすく狂いも少ないため、碁盤、将棋盤のほか、算盤珠、まな板などの器具材、漆器木地、天井板などの建築材、家具材に広く使われています。
植物は自家受粉による近親交配を避けるため、驚くほどのいろいろな方法を編み出してきました。ユリの花のように一つの花に雌しべと雄しべがある場合には(両性花)、自家受粉の危険が大きくなります。このため、雌しべは背が高くて雄しべはその回りを囲んで背は低くしました。これによって雌しべは自花の雄しべからこぼれた花粉で受粉する危険を避けるようになっております。雄しべは外がわに向かって反り返ります。これは雌しべからできるだけ離すための工夫です。
 雄花と雌花にはっきり分けた植物があります(雌雄異花、しゆういか)。野菜としてお馴染みのキューリ、カボチャ、スイカ。野草ではカラスウリなどがあります。樹木では、ドングリがなるブナ科のクリ、コナラ、クヌギ、カシの仲間。シラカバ、花粉アレルギーの原因になっているマツ科のマツ、スギ、カヤの仲間など。雌雄異花の植物は沢山あります。
自家受粉を避けるために、株ごとオスとメスにわかれた植物が有ります(雌雄異株、しゆういしゅ)。多くの動物が雄と雌に分かれているのと同じですね。身近なものには果物のキューイフルーツ、香辛料に使われる小粒でもぴりっと辛いといわれるサンショ。そして、イチョウも雌雄異株の植物です。
イチョウの葉は上の写真に見るように、綺麗な扇形になります。イチョウの葉脈は根本(葉柄)から延びてきて次ぎ次ぎに同じ太さでYの字状に分かれます(2叉状脈)。このため、成長と共にきれいな末広がりの扇形の葉が出来上がります。
街路樹のイチョウは実をつけないのはご存知でしょうか? イチョウの実であるギンナンは美味しく茶碗蒸しなどで珍重されますが、路上に落ちると臭くて汚いといって苦情が来ます。走行中の車のフロントガラスにも落ちるかも知れない。そのためイチョウを街路樹として植栽するときには雄の株だけが選択されます。雌株は除かれるのです。
イチョウ属が地球の各地で盛んに見られたのは巨大恐竜の時代です。やがて氷河期がきてほとんどは滅亡し、中国にただ1種が生き伸びた。それが今日のイチョウになっております。
意外に感ずると思いますがイチョウは絶滅種に分類されております。イチョウは日本中どこにでも有るありふれた樹木ですが、野生では既に絶滅してしまいました。いまは人間の管理下でのみ辛うじて生きながらえている植物です。
やや専門的なお話しになりますが。国際自然保護連盟では危機に瀕している生物種をその危険度に応じて区分し、野生状態では見られなくなったものを絶滅種と定義しました。この定義によれば、恐竜のように完全に絶滅したものばかりではなくイチョウも絶滅種となり,一般の市民の感覚とのズレが避けられません。そこで、今日ではカテゴリーを2分して、完全絶滅と野生絶滅としました。イチョウは野生絶滅種であり、生きた化石なのです。
こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。
               ( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

Posted by omni at 2005年02月20日 22:23 | トラックバック
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