2005年02月06日

生き物こぼれ話(その15)

        モミジは種子に翼を持たせました

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この写真は新宿御苑のイロハモミジの実です。カエデ科カエデ属。
ロハモミジは福島県以西の本州、四国、九州、朝鮮に分布する落葉の小高木。秋の紅葉は美しく、各所に紅葉の名所があります。和名の由来は、葉の裂片を数えるとき「イロハニホヘト」と数えたことに由来するという、7裂だけではなく5裂であることも多い。

 生物は多くの子孫を残すためにいろんな工夫をしてきました。植物の場合は動物のように自由に動き回ることが出来ないので、より多くの手法を重ねてきました。
自分が動けないモミジは、なんと、種子に翼を持たせたのです(翼果)。秋になってこの翼果が熟すと、風に乗って羽根のようにくるくると回転しながら、遠くまで飛んでいきます。落下した地点が生育に適した地であればそこで発芽することになります。
今回は、植物が種族保存のために種子を遠くまで運ぶ(種子散布)、いろいろな方法についてのお話しです。種子の構造は、大豆を割ったときの形を思い出して頂くといいのですが、発芽の核となる胚とそれを取り巻く栄養とから成っております。
タンポポは花が終わってしばらくすると、白い球形の綿毛をつけます。一つ一つの実はパラシュートのように冠毛にぶら下がって飛んでいきます(風散布)。風によって運ばれるためには、なによりも軽くなければなりません。
しかし、種子を小さくするためには、次世代をになう胚に持たせられる栄養分が少なくなり、結果として芽生えの定着率が低下してしまいます。一方、風散布はその名の通り風まかせですから、生育可能な地点に落ちてくれることはむしろ少ないと考えられます。
そこでこれをカバーするために、風散布型植物の場合にはとにかく多くの種子を作って散布することになります。風散布の最大の特徴は散布性が優れていること、つまり広い範囲に撒き散らされることです。うまく上昇気流に乗れば、海を越えて向こうの陸地に散布されることもできるかも知れません。セイヨータンポポはこのようして世界中に拡がったと考えられております。
センリョーやマンリョーは正月を彩どるめでたい木とされていますが、鳥によって実が食べられ、種子が排泄されることによって散布されます(被食鳥散布)。鳥は歯がないので果実を丸呑みすることになります。これによって、鳥は果肉の栄養を摂取することになり、植物の方は種子を運んでもらうという相利共生の関係がうまく成り立っております。
果実を食べる鳥はふつう森林性であり、したがって被食鳥散布はおもに森林植物となります。鳥の側では極力体重を減らさなければならないので、ムダなものをいつまでも体内に滞留させておくことは出来ません。このため散布距離は鳥の飛行時間にして数分から十数分程度と考えられています。
ドングリの名で親しまれているブナ科の堅果類は、比較的大きくて栄養に富んでいるので、野生の多くの生物の生命を維持していますが植物側からみたら加害者です。それらの中で、野ネズミやリス、カラスなどは見つけた果実類を別の場所に貯蔵して後で食べる習慣があります。
しかし、運んだ種子や果実を全て食べるわけではなく食べ残しがでます。この比率は5〜10%くらいと考えられています。うまく捕食から免れたものは、その地で芽生えることになります(貯食散布)、
オナモミやセンダングサ、エノコログサは種子にカギやトゲを付けています。これによって通りかかった動物の体に種子が付着することによって遠くに運ばれます(付着動物散布)。
スミレの種は糖分(エライオソーム)を外側につけてアリを誘引します。アリは種を巣に運んでエライオソームを子供に食べさせ種は巣の外に捨てます。これがやがて発芽します(アリ散布)
つまり野生の中ではいろんな動物や植物が共生の関係になって全体が生きております。そしてそれらの関係の多くは未だ解明されておりません。ここに生物多様性保全の必要性が叫ばれる理由があるのです。
こんなお話は興味が有りましたでしょうか? 最後まで読んで下さって有難うございました。
              ( 財団法人日本自然保護協会・自然観察指導員 小 原 芳 郎 記 )

Posted by omni at 2005年02月06日 10:37 | トラックバック
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